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館長雇止め・バックラッシュ裁判の情報をお伝えします


by fightback2008
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控訴理由書の遠山解説 その2

お待たせしました。遠山日出也さんによる『控訴理由書』解説の続きです。

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●「第6 採用拒否に関する原判決の誤り」より

「組織変更」という手を使いさえすれば、三井さんのこれまでの実績を考慮に入れずに理不尽に首を切ってしまえるとした豊中市のインチキ論理を、従来の判例を踏まえつつ打ち破っていて、私は興味深く思いました。

2.優先採用の義務の否定について(p.59-66)
 原判決は、今回の常勤館長の採用試験は「新たに、複数名の候補者の中から選任する手続であるから、裁量の幅は広い」と述べている。しかし、以下の(1)~(4)のとおり誤りである。

(1)本件有期契約の趣旨について
 原判決は、「すてっぷ」の館長を有期雇用にしていたことの合理的理由が明らかでない。
 すなわち原判決は、せいぜい「『すてっぷ』の性格から、一人の館長が、館長職を長期間独占することを想定しているとは言い難い」としている程度である。しかし、組織変更によって「すてっぷ」の館長職が常勤化されたことから考えても、そうした理由には合理性を認められない。

 館長職を有期雇用にしていたことを合理的に説明しようとすれば、結局、有期契約の期間を、試用期間と同様のものとして理解するしかない。
 というのは、財団は、「すてっぷ」の初代館長を公募・非常勤で採用したわけだが、公募のデメリットとして、「採用決定した人材が合わないかもしれない」「連携・人間関係形成に時間がかかる」などの点を挙げている。その一方、非常勤のメリットとして「雇用関係を解消しやすい」ことを挙げている。
 すなわち、館長職を有期雇用にしたのは、採用した館長の適性(=合うかどうか、連携・人間関係形成が可能か)を、一定の期間をかけて評価するため、と考えられる。

(2)試用期間後の本採用拒否についての最高裁判例
 判例によると、今回の有期雇用は「試用期間」であると考えられる。試用期間後の本採用の拒否は、「客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合」だけにしか許されないとされている(神戸弘陵学園事件最高裁判決:1年の期限付き常勤講師として雇われた職員が、その期限満了をもって辞めさせられた事件)。すなわち、使用者に広範な裁量権は許されない。

(3)本採用拒否の制限と優先採用の義務
 「すてっぷ」の館長を有期雇用にしたのも、採用した館長の適性を一定の期間をかけて評価するためであると考えられる。すでに更新を3回にわたって繰り返していることで十分な期間が経過しており、控訴人に館長としての適性に問題がないことは明らかである。
 したがって、財団側が、常勤館長の採用を拒否しうる「客観的合理的な理由」を明らかにしないかぎり、控訴人は採用を期待しうる地位にある。したがって、財団は、控訴人と他の応募者を同列に扱うことは許されず、控訴人を優先的に採用する義務を負う。

(4)組織変更前後の業務の同一性
 なお原判決は、本件の採用に関して、パートタイム労働法指針の適用について判断した箇所で、「組織変更後の常勤館長は、事務局長を兼務するから、それまでの非常勤館長とは業務内容が相当異なる(から適用できない)」と述べている。
 しかし、原判決のこのような業務内容の把握は、実態を無視した不当な認定である。
 すなわち、2003年12月、桂が本郷に、「事務局長の仕事は、私には困難だと思う」と述べたのに対して、本郷は「そうした事務の仕事は、総務課長がするので心配ない」と述べている。とどのつまり、事務局長の任務はほとんど重要視されていなかった。となれば、本件は、試用期間後の本採用拒否に等しいと言える。


遠山日出也(大学非常勤講師)
by fightback2008 | 2008-03-04 22:16 | 裁判情報