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館長雇止め・バックラッシュ裁判の情報をお伝えします


by fightback2008
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6月5日報告 19 : 脇田意見書の要約

遠山日出也さんによる「脇田滋意見書の要約」を紹介します。脇田意見書全文は、 こちらをどうぞ。(脇田意見書の要約は、弁護団版があり、高等裁判所に提出されました。そちらは手控えでありHPアップはいたしません)
                                      ファイトバックの会

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1.契約期間の定めと更新の合意 

 大阪地裁判決は、有期雇用契約について、「契約更新について当事者の間に合意が存在しないかぎり、期間満了によって雇用契約関係は終了する」としている。この解釈は、従来の判例の動向に反しているとともに、それを踏まえた近年の労働基準法改正や労働契約法の意義を全く理解していない点で根本的欠陥がある。

 日本の裁判所は、有期雇用契約が解雇権濫用を制限する法理を回避する手段にならないようにしてきた。とくに最高裁の東芝柳町工場事件判決は、採用、雇い止めの実態、会社側の言動を重視し、解雇相当の理由がないのに雇い止めをすることは許されないとした。最高裁の日立メディコ判決も同じである。下級審も、更新回数や雇止めの実態などを踏まえた判断をしてきた。

 また、2003年に改正された労働基準法は、第18条の2で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めた(現在は労働契約法第16条)。

 最近登場した有力な学説(川田知子氏)は、「労基法18条の2にもとづけば、解雇制限に関する法律の規定を回避する目的で締結した有期雇用契約は脱法行為であり、違法である。それゆえ、労働契約の期間が、客観的に合理的な理由なく定められたときは、その労働契約は期間の定めのないものと見なさなければならない」とする。川田氏は、ドイツでは、1951年に「解雇制限法」が制定されたのちに、有期雇用契約が解雇の制限を逃れるための脱法行為に利用されないように、有期雇用契約には合理的・客観的な理由が必要であるとされたことを踏まえている。

 筆者(脇田)も川田氏の指摘は的を得ていると考える。しかし、筆者は、主に2003年の改正労基法が新設した第18条の2自体、解雇について新たな規制内容を導入したものではなく、既に判例として確立した濫用的解雇制限法理を立法的に確認したことを重視するべきだと考える。そうであれば、18条の2を待つまでもなく、使用者側に解雇制限法理脱法という意図がないと言えないかぎり、契約期間設定自体が無効であると解する必要があると考える。

 それでは「客観的に合理的な理由」というのは、どういう場合か? その点については、ILO158号条約やEUなどの考え方に基づき、18条の2適合的目的解釈としては、以下の場合だけに、労働契約に期間を定める合理的理由があると推測される。①臨時的・一時的な業務、②恒常的業務であるが、それが臨時的・季節的に増大する場合、③試用期間、④特別な雇用創出政策目的の場合。

 この合理性の立証責任は、期間設定により大きな利益を得ると考えられる使用者側に負担させるべきである。

 地裁判決は、契約期間設定に対して解雇を制限する確立した判例法理やそれを確認した強行規定(労基法)の存在についてまったく考慮せずに、逆に、契約更新の合意の存在の立証を労働者側に課している点で根本的に判例法理や法令の解釈を誤っている。

2 雇い止めの有効性

 本件の契約は1年契約であり、本来、期間設定そのものが前述のとおり解雇制限に反する疑いが強いと考えられるが、少なくとも解雇(雇止め)である。あくまでも使用者側の都合と主導による「組織変更」が雇用契約終了の主因なのである。使用者側都合による解雇については、多様で巧妙な責任回避策が採られるという視点を持つことが重要である。形式的な判断ではなく、実質的な検討が重要であり、解雇責任回避でないことについて立証責任を使用者側に転換することを含めた判断が必要であり、地裁判決には、この点が全く欠落している。

 使用者側都合による解雇は、「整理解雇」として、とくに解雇権濫用という視点から、厳しい要件を課す判例法理が形成されてきた。通常、(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力、(3)人選の合理性、(4)労働者への説明などがなければ、濫用的な解雇として無効とするのが多数の判例である。本件についても、整理解雇の法理を類推適用して(ただし今回の事件は、集団的整理解雇事件ではないので、上の(3)の「人選の合理性」の判断は除く)、以下の3点に留意して判断するべきである。
(1)館長常勤化の業務上の必要性
(2)解雇回避努力
(3)労働者への説明

 「(1)館長常勤化の業務上の必要性」について言えば、業務上の必要性が明確でない。非常勤館長で大きな不都合はなく、事業自体は原告の熱心な取り組みで順調に展開していたのであって、常勤館長への組織変更の必要性が何かについて大きな疑問が残る。

 「(2)解雇回避努力」については、パートタイム労働法の趣旨に基づく、常勤館長への優先転換に関する配慮義務がより強く求められるべきである。しかし、被告は信義に反した恣意的な対応に終始し、この義務を尽くさなかった(後述)。

 「(3)労働者への説明」について述べると、従来の館長職を改めて新たな制度に組織変更するときは、従来の経験者に意見を聞きながら改善点を踏まえて、組織構想を立てるのが一般的である。
 筆者も公立大学(京都府立大学)と私立大学(龍谷大学)に約30年間所属し、多くの組織変更を経験したが、今回の事件では、通常なら当然行うべき従来の責任者(原告)への聞き取りや相談がほとんど行われずに進められたことに、とりわけ強い疑問を感ずる。組織変更の常識に反する異常な経過である。ところが、地裁判決はこの点について使用者側に立証責任を課すこともなく、実質的判断を避け、形式的判断で済ませている。
 これまでの館長職の問題点や課題を一番知っているのは館長であるのに、本件では、その意見を聞くこともなく組織変更が進められている。ここからは、本件組織変更が原告排除を意図することが疑われ、そうでないことを使用者側が立証する責任があるとするべきである。

3 最高裁・神戸広陵高校事件判決の意義 

 期間を定めた労働契約の1回目の期間満了の段階でおこなわれた更新拒否について、その有期契約の期間設定の性格を試用期間とみなして、その法的効力を判断した判決(最高裁・神戸広陵高校事件判決)がある。

 本件は、たしかに広陵高校事件と異なり試用期間という明確な合意はなく、全国公募の館長職として選考の段階で高い能力を認めて採用された事例である。しかし、「新規事業が順調に発展しない場合には更新されない可能性があることから、期間を定めた契約にした」ことを被告側は指摘している。つまり、本件の有期契約には、事業が順調に発展することを要件として雇用を継続し、そうでなければ雇用が継続されないという意味で、文字通りの試用期間ではないにせよ、試用期間に類似した性格があったと考えてよい。

 そうすると、原告が事業の発展に大きく寄与してきたにもかかわらず、その雇用を継続しないことにするためには、特に客観的に合理的な理由が必要とされるとともに、とりわけ信義誠実に原告に対応し、その納得を十分に得ることが必要不可欠であったと考えられる。

4 常勤館長への優先転換に関する配慮義務

 2007年改正の「パートタイム労働法」は、パートタイマーの通常労働者への転換を推進する措置を講ずる事業主の法的義務を定めた。

 たしかに厚労省の行政解釈によれば、第12条が事業主に求めているのは、パートタイマーを通常の労働者に転換するための「機会の付与」にとどまる。しかし、この行政解釈によっても、転換推進措置については、「一定の客観的ルールに沿って公正に運用される制度となっていなければならない」とされている。

 2007年改正の「パートタイム労働法」は、2008年4月に施行されたものだが、本件当時、すでに「パートタイム労働指針」が出されており、「事業主は、通常の労働者を募集しようとする場合は……短時間労働者に対して、あらかじめ当該募集をおこなう旨及び当該募集の内容を周知させるとともに……希望する者に対し、これに応募する機会を優先的に与えるように努める」としている。

 財団は、男女共同参画推進事業を率先して推進する団体であり、多くの女性が非正規雇用としてパートタイムで就労している状況の改善の必要性を社会的に啓蒙・普及する立場にある。その点で、パートタイム労働法や指針について消極的な主張をすることが許される立場にはない。

 そうすると、被告は、少なくとも、原告に対して常勤館長に転換するための措置、すなわち募集や配置についての周知と機会の付与を公正におこなうことが義務づけられていたことになる。被告がこうした義務を尽くしたとは考えられない。

 ところが、地裁判決は、この公正な機会を付与する被告の義務をまったく無視しており、複数選考の場合には選考側により広い裁量が認められるとするなど、関連法令についての無理解に基づく、明らかに誤った判断をしている。

遠山 日出也(大学非常勤講師)

6月5日報告 19 : 脇田意見書の要約_b0159322_1524122.jpg



満員の聴衆を前に「豊中市は組織変更をする必要はなかった」と力説する脇田教授。6月5日、大阪中之島の中央公会堂。写真撮影:おかはしときこ
by fightback2008 | 2008-06-15 15:00 | 裁判情報